膀胱炎と抗生物質の使い方
2025/06/15

普段は、何気なくトイレに行って用を足す、という行動が、いちいち、気になってしまう、というのが膀胱炎の症状です。
トイレに行きたい感覚がやけに強い、頻繁に感じる、出す時に痛みや違和感がある、すっきりしない、時には、おしっこに血が混ざる、寒気がする、腰が痛む、などの症状を伴うことも少なくありません。
特殊な膀胱炎、を除けば、細菌感染が原因のことが多いので、抗生物質(厳密に言うと抗菌剤の方が正しいのですが、わかりやすいので、あえてこちらを使います、気になる方すみません)を飲めばいいんでしょ、と思われがちですが、意外と侮れないのが膀胱炎のお薬です。
尿検査せずに抗生物質を処方される医療機関や、お薬が効いたかどうか確認しない臨時の診療では、とりあえず、何にでも効くだろう、と、膀胱炎にしては強すぎるお薬を出されがちです。一時的にすぐによくなる、かもしれませんが、同じような治療を繰り返していると、不必要な抗生物質を使うことで、知らないうちに、お薬の耐性ができてしまいます。また、そのような処方をされる患者さんが増えると、巷に存在する細菌の多くが耐性菌になってしまい、いざという時にお薬が効かない、と言う事態になります。実際にそのような問題が医療現場で起こっています。
大は小をかねる、という言葉がありますが、抗生物質に関しては、その考えは、とても危険なことです、
つい先日行われた、2025年泌尿器科学会総会で報告されていましたが、閉経前の女性では1割以上、閉経後の女性では3割以上の方に抗生物質耐性の大腸菌が見つかっています。
理屈から言えば、一週間程度かけて(培養検査)、細菌の種類を確認してから抗生物質を処方してもらうのが正しいのですが(海外の病院では珍しくありません)、さすがにつらいので、外来診察では、顕微鏡をつかって細菌の形を観察して、大腸菌かそれ以外か、というようなおおまかな分類から、それに合うお薬を処方する、ということが、重要なことだと考えています。
抗生物質は、どのような細菌か、どこに感染しているのか(肺炎なのか、皮膚炎か、尿路感染かなど)、患者さんの年齢や、持病によって、優先順位を考えてお薬を選ぶ必要があります。とても奥が深くて、難しいものです。ガイドライン、は、もちろんあるのですが、作成している団体(学会)によって、少しずつ異なっています。そのことからも、感染症の治療の難しさがわかります。
もちろん、抗生物質をうまく使っても、膀胱炎は再発しますし、副作用が起こることは、あります。とても難しいものです。
細菌は賢いので、抗生物質を使えば、耐性菌が出てくることは避けられませんが、治療の効果と、耐性菌の猛威を防ぐことのバランスを取りたいと思って日々診療に取り組んでいます。
ただ、ここまで書いておきながら・・・ですが、コロナ禍以降、抗生物質を含めた薬不足が解消されておらず、処方されたお薬を薬局で受け取れない、という、状況がいまだにあります。感染症治療・・たかが膀胱炎、されど膀胱炎、です。